「訪問美容を始めたいけど、何から手をつければいいか分からない」
そう思っている方、いませんか。
実は私たちも、最初はそうでした。
これまで3回にわたって、創業から今に至るまでのエピソードを書いてきました。
振り返ってみると、私たちは「制度」をきちんと理解しないまま、勢いで走り出してしまった部分がありました。
技術さえあれば何とかなる。
そう思い込んでいた頃の私たちに、もし今の自分たちが会えるなら、真っ先に伝えたいのが、今日お話しする内容です。
今日は、これから訪問美容を始めたい方に向けて、私たちが後から学んだ「知っておくべきだったこと」をまとめておこうと思います。
法律の話、届出の話、そして事業の形態の話。
どれも地味に感じるかもしれませんが、ここを飛ばしてしまうと、後々大きくつまずくことになります。
読み終わる頃には、何をどこで確認すればいいか、全体像が見えているはずです。
まず知っておきたい大原則:「美容所以外で施術してはいけない」
美容師法という法律には、こんな決まりがあります。
美容師は、原則として「美容所」以外の場所で施術を行ってはならない。
これが大原則です。
サロンで働いていた頃は、あまり意識することのないルールかもしれません。
でも、訪問美容という仕事は、この大原則の「例外」として成り立っています。
政令で定められた特別な事情がある場合に限り、美容所以外の場所での施術が認められているのです。
なぜこんな規制があるのかというと、美容所には衛生面の基準が定められていて、開設時にその基準をクリアしているからです。
美容所以外の場所では、その基準が担保されていない。
だからこそ、原則禁止という形になっているのです。
私たちも、独立を考え始めた頃、正直この大原則をあまり深く意識していませんでした。
「訪問美容」という言葉が世の中に広がりつつあったので、なんとなく自由にできるものだと思い込んでいたのです。
でも実際には、あくまで「例外として認められている」だけ。
この前提を最初にしっかり理解しておくかどうかで、その後の準備の丁寧さが大きく変わってくると思います。
私たちの活動地域では、さらにもう一段階、確認しておくべきことがありました。
サロンに所属せず、美容室という店舗を持たない形で活動する場合、「管理施設」を設置し、その届出を行う必要があったのです。
いわゆる「美容所」を構えていない私たちのような形態でも、器具の洗浄・消毒などを行う拠点として、管理施設の設置が求められる。
これも、地域によって扱いが異なる部分なので、必ずご自身の活動エリアで確認していただきたいポイントです。
誰に対してなら、訪問美容ができるのか
では、どんな場合に「例外」が認められるのでしょうか。
対象になるのは、主にこのような方々です。
- 疾病、骨折、認知症、障害、寝たきりなど、身体の状態によって美容所に来ることが難しい方
- ご自身は健康でも、乳幼児の育児や、要介護状態のご家族の介護のために家を離れられない方
逆に言えば、単に高齢であるというだけでは、対象にならないケースもあります。
この条件に当てはまらない方に訪問美容を行ってしまうと、法律違反になってしまいます。
「頼まれたから」「断りにくいから」という理由で引き受けてしまうと、思わぬところで法に触れてしまう可能性がある。
ここは、最初にしっかり理解しておくべきポイントだと思います。
私たちの現場でも、この線引きに悩む場面は今でもあります。
「足腰が少し弱ってきただけ」という方からご依頼をいただくこともあり、その都度、対象となる条件に本当に当てはまるのかを、施設の職員さんやご家族と丁寧に確認するようにしています。
この確認を怠らないことが、事業を長く続けていくための、地味だけれど大切な土台になっていると感じています。
保健所への届出は、「自治体によって違う」という落とし穴
ここが、私たちが一番戸惑ったポイントです。
出張美容を行うにあたって保健所への届出が必要かどうかは、全国一律ではありません。
自治体によって、ルールが違うのです。
届出が必要な自治体もあれば、美容師免許さえあれば届出は不要という自治体もあります。
私たちも創業当初、この違いを知らず、あちこちに問い合わせて確認して回りました。
今思えば、最初にもっと丁寧に調べておけばよかったと感じています。
窓口によって、担当者によって、微妙にニュアンスの違う回答が返ってくることもありました。
だからこそ、一度の電話やホームページの確認だけで終わらせず、実際に足を運んで、資料を見せながら確認するくらいの丁寧さが必要だと、身をもって感じました。
もしこれから訪問美容を始めようとしているなら、まず最初にやるべきことは、ご自身の活動エリアを管轄する保健所に直接足を運ぶことです。
自治体のホームページを見るだけでは分かりにくい部分も多いので、窓口の担当者と顔を合わせ、一つひとつしっかり確認しながら進めることを強くおすすめします。
管理美容師について
もう一つ、知っておいた方がいいのが「管理美容師」という資格です。
私たちの活動地域では、先ほどお伝えした「管理施設」の設置にあたって、この管理美容師の登録が必要でした。
管理施設を構えるという手続きと、管理美容師という資格は、私たちの地域ではセットで求められるものだったのです。
美容師が常時複数人働く美容所では、衛生管理の責任者として、管理美容師を置くことが定められています。
管理美容師になるには、美容師としての経験が3年以上あり、都道府県知事が指定する講習会を修了している必要があります。
これは主に、店舗としての「美容所」に関する規定です。
訪問美容専門の事業形態にそのまま当てはまるかどうかは、自治体の判断によって変わってくる部分でもあります。
私たちの場合は、妻がこの管理美容師の資格を取得しています。
資格を持っているという事実そのものが、施設側やご家族への安心材料になっている実感があります。
「きちんとした資格を持った方に来ていただいている」という安心感は、言葉では説明しきれない信頼につながります。
特に医療・介護の現場では、こうした裏付けの積み重ねが、契約継続の決め手になることも少なくありません。
私たちの場合、管理美容師の資格だけではありません。
訪問美容を始めるにあたって、妻はNPO法人日本理美容福祉協会が認定する「福祉理美容師」の資格を取得しました。
さらに、妻と私は2人そろって「介護職員初任者研修」を修了し、日本ケアフィット共育機構が認定する「認知症介助士」の資格も取得しています。
技術だけでなく、介護・福祉の知識に裏付けられた資格を積み重ねてきたことが、施設の職員さんやご家族に安心して私たちを迎えていただける理由の一つになっていると感じています。
私たちが「法人化」を選んだ理由
もう一つ、これから訪問美容を始める方に、ぜひお伝えしたいことがあります。
それは、個人事業主としてではなく、法人化するという選択肢です。
私たちは、合同会社という形で事業を始めることを選びました。
理由はいくつかありますが、特に実感しているのはこの2つです。
施設側からの信頼を得やすかったこと。
病院や高齢者施設という現場は、契約の相手として「法人」であることを重視される場面が少なくありません。
個人事業主よりも、法人としての実績や体制の方が、信頼していただきやすい印象があります。
複数の契約を進めやすかったこと。
施設が増えていく中で、契約書を交わす場面も増えていきます。
法人としての体制を整えておいたことが、その後の契約をスムーズに進める土台になったと感じています。
個人事業主のままでも、もちろん訪問美容を営むことはできます。
ただ、施設という組織を相手にする仕事だからこそ、こちらも組織としての体裁を整えておくことが、思っていた以上に効いてくる。
これは、実際にやってみて初めて実感したことでした。
法人化が、集客そのものにどう効いてくるのか。
このあたりは、また改めて「集客」をテーマにした記事で、詳しくお伝えしていきたいと思います。
ここまで読んでいただいた方へ
法律の話は、正直、地味で退屈に感じるかもしれません。
でも、ここを曖昧にしたまま走り出すと、後から大きくつまずくことになります。私たちがそうだったように。
- まず、自分の活動エリアの保健所に、届出の要否を直接確認すること
- 訪問美容の対象となる方の条件を、正しく理解しておくこと
- 事業の形態(個人事業か法人か)を、早い段階で考えておくこと
改めて、今日お伝えした5つのことを整理しておきます。
- 美容所以外での施術は、原則として禁止されているという大前提
- サロンに所属しない場合、「管理施設」の設置と届出が必要になること
- 訪問美容の対象になる方には、明確な条件があること
- 保健所への届出の要否は、自治体によって異なること
- 管理美容師や介護関連の資格、そして法人化という選択が、信頼につながること
この5つを押さえておくだけで、これから訪問美容を始める方のスタートは、私たちの頃よりもずっとスムーズになるはずです。
私たちは、この基本的な部分を後回しにしてしまったせいで、余計な回り道をしてしまいました。
だからこそ、これから始める方には、最初の一歩でつまずいてほしくないという想いで、この記事を書きました。
次回は、この続きとして、実際に施設との契約をどう進めていったのか、営業活動のリアルについて書いていこうと思います。

